休日の遅い朝、地下鉄東西線で西28丁目駅へ。ここから札幌西高校を目指す。散策というからには徒歩で向かいたいところだが、先は長丁場となるため、バスを使うのもよしとしよう。高校玄関前にあるのが、1つ目の作品『蒼穹』①だ。蒼穹とは、青空や大空の意。ブロンズの少女が空に向かって両手を広げている、さわやかな作品だ。まだ寝ぼけているなら、彼女とともに体を伸ばしてみては? 作者は札幌二中(現・札幌西高校)出身の佐藤忠良。すぐ側にある『潜kirameki』②の作者・永野光一も同校出身だ。
前半戦、この先は傾斜がきつくなる。覚悟を決めたら、宮の森北24条通りを山側へ。北1条宮の沢通りに出たら、左に曲がって交番を目指す。そのすぐ側にある宮の森まちづくりセンター前に立っているのが『鳥を抱く女』③だ。来た道を戻り、再び宮の森北24条通りを登って2本目の道を右へ入ると、木々に囲まれた宮の森緑地遊歩道が登場。足を踏み入れるとすぐに『太陽の母子』④が和やかに迎えてくれるはずだ。この遊歩道を登って下った向こう側にはもう一つの入口があり、先ほどの『鳥を抱く女』とそっくりの『鳥を抱く女“朝”』⑤が立っている。これら3作はいずれも、日本を代表する彫刻家・本郷新の作品で、『鳥を抱く女』たちは特に気に入ったモチーフだったのか、全部で14点も制作されているという。それぞれに異なる趣があり、見比べるのも楽しいものだ。ちなみに、この本郷もまた札幌二中出身。後に登場する山内壮夫も含め、宮の森円山の街路は、同校出身作家の彫刻によって彩られている。そして、遊歩道を出た先にあるのが、生前の本郷のアトリエをもとにつくられた本郷新記念札幌彫刻美術館というのも面白い。遊歩道の左手に平行している宮の森モール・彫刻の道には『奏でる乙女』⑥がたたずみ、美術館前庭には『わだつみの声』⑦などが配されている。これら本郷の作品は、この街に欠かせない存在となっているのだ。
彫刻美術館から大倉山ジャンプ競技場まで、一気に登る。車ではなく、足で登った同所からの景色は、格別のはずだ。スポーツミュージアムの左側には、札幌冬季オリンピック(1972年)のテーマソング「虹と雪のバラード」の詩碑と『NIKE』⑧があり、背景のジャンプ台に一層の重厚感を与えている。また、クリスタルハウスの上には、我が国の医学界とスキー界の発展に大きく寄与した『大野精七博士顕彰碑』⑨もある。さあ、ここでハーフタイム。クリスタルハウスでランチを楽しみながら一息入れよう。
後半戦は、緑に包まれた道を円山エリアへとゆっくり下っていく。円山競技場では、エントランスにほど近い『南部忠平顕彰碑』⑩へ。札幌出身の南部はロス五輪(1932年)の三段跳び金メダリストで、この作品も前述した本郷によるもの。また、円山動物園入口の『よいこつよいこ』⑪は、本郷の後輩である山内の作品。鳥の首につかまって戯れている幼子が何とも愛らしい。
北海道神宮拝殿の左手には、札幌の礎を築いた開拓判官・島義勇の像が力強く立っている。そして、この散策の最後を締める作品は、円山公園の北東端にある『岩村通俊之像』⑫。散策1つ目の作品だった『蒼穹』の佐藤忠良によるもので、岩村は島を引き継いだ二代目判官、かつ北海道庁の初代長官である。円山公園の周りには、おしゃれで居心地の良いカフェが点在している。この小さな旅を振り返りつつ、街の歴史に思いを馳せてみるのもいいだろう。