地下鉄南北線すすきの駅。地上に出ると、駅前通り東側の歩道で『午前0時の会話』①が出迎えてくれる。いかにもススキノらしい作品名だが、日中のこのエリアは、夜のイメージとは正反対の、静かで穏やかな空気につつまれている。南4条から6条にかけては、同作をはじめとした彫刻作品が通りの東西に4つずつ、計8点も並んでいる。いずれも抽象的な作品で、見る人のイメージをさまざまに広げてくれる。南5条で駅前通りから西に2丁行くと、ビルの角に男女の姿が。この國松明日香によるブロンズ像『出逢い』②からは、階段を降りてくる男と、階下で待つ女の多様な物語が連想される。そこから北に進み、国道36号を渡ると、巨大な銀色のタマゴが登場。平田まどかと松本純一による、その名もズバリ『タマゴ』③だ。周囲には多くのビルが立ち並んでいるが、待ち合わせなどの際は「大きなタマゴがあるビル」と言えば、たいがいの市民に通じてしまうほどインパクトの強い作品である。
駅前通りに戻って北上すると、街の活気は徐々に増していく。その途中、中央分離帯の樹木の間で大きくねじれた金属の輪が支柱に支えられて浮かんでいる。この『ふれあいの輪』④は、昭和58年(1983年)、札幌市の5大都市入りを記念して飯田勝幸によって制作された。まったく同じ作品が大通公園手前の中央分離帯にもあり、2つの輪に挟まれたエリアは札幌一の繁華街として今日まで大いににぎわいを見せてきた。そんな札幌の街の様子を、水野メガネ本店ビル壁面からずっと見つめてきたのが『花と子供』⑤だ。そして、街の歴史に思いを馳せるなら、創成川公園に鎮座する『札幌建設の地碑』⑥も、少々回り道ながら外すことはできない。「今日の札幌市はこの付近を基点として発達したのである」と刻まれた、まさにこの街の原点である。南1条通りでは、ラ・ガレリアビル前の『元気地蔵』⑦も要チェック。季節によって電飾された服を着ることもある、愛嬌のある作品だ。
大通公園を横断してビジネス街へ。明治2年(1869年)の開拓以来、数え切れない建造物が建てられてきた札幌。この辺りでは、札幌にゆかりの深い彫刻家の作品が建物のエントランス周りを演出している。まず、北海道新聞社北玄関にあるのが、自然に育まれながら逞しく生きる北海道の家族を描いた、本田明二によるレリーフ『大地のうた』⑧。別壁には米坂ヒデノリのレリーフ『北を拓く』もある。次に日本郵政グループ札幌ビル前にある、ステンレスパイプで自在に曲線を描く伊藤隆道ならではの『空・ひと・線』⑨。そして、北海道庁前庭には、本郷新が母子の絆を日常的な風景から切り取った『北の母子像』⑪があり、3作家の個性がそれぞれの場で生かされている。また、郵政ビル前では『Breeze』⑩もお忘れなく。
北海道庁から駅前通りに戻ると、NORTH33ビル前には『EYES』⑫と『MANAZASHl』⑬の2作が向かい合っている。どこかで見たような…? そう、ラ・ガレリアビル前の『元気地蔵』とそっくりなのだ。もちろん作者はいずれも松本純一。3作とも、現代風の地蔵といった雰囲気の愛らしい作品である。このように、「これはあの人の作品だ」とすぐにわかるのも、作家の個性がなせる技。前出の『出逢い』の作者である國松明日香の作品群も、“國松らしさ”を主張している。國松は、鋼板を優雅かつダイナミックに組み合わせた作風が特徴的で、小作品ながら駅前通り北4条の『NIKE』⑭もその系譜にある。ブロンズ像『出逢い』はむしろ、國松の中では珍しいタイプで、このように同じ作家の作品を見比べながら歩くのも楽しいものだ。
さあ、最後は、まるで「ここがこの散策のゴールだ!」と言わんばかりの『札幌駅南口モニュメント』⑮へ。この、シンプルながら力強いエゾマツの門柱を抜けると、JR札幌駅前に立つ『牧歌の像』⑯の男女5人が迎えてくれる。昭和35年(1960年)生まれの5人は、平成15年(2003年)の駅ビル大リニューアルなど、時代とともに大きく様変わりしていく札幌の姿を見て、いったい何を思っているのだろうか。